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東京高等裁判所 昭和48年(行ソ)4号 判決

再審原告

中島與市

再審被告特許庁長官

斎藤英雄

右指定代理人

戸引正雄

外一名

主文

本件再審の訴を却下する。

訴訟費用は、再審原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈略〉

第二  請求原因

一  再審原告は、同人を原告、再審被告を被告とする東京高等裁判所昭和三五年(行ナ)第六号抗告審判審決取消請求事件(以下「旧訴訟」という。)について、昭和三五年四月七日訴却下の判決言渡を受け、これを不服として上告したところ、この上告事件(最高裁判所昭和三五年(オ)第六八四号事件)について、昭和三六年八月三一日上告棄却の判決言渡があり、前記東京高等裁判所の判決は、同日確定した。

二  しかし、この確定判決(以下「原判決」という。)は、再審被告指定代理人の代理権に欠缺があり、民事訴訟法第四二〇条一項三号の規定に該当するから、その取消しを求める。その詳細は別紙のとおりである。〈別紙省略〉

第三  答弁

原判決に、再審原告が主張するような再審事由のあることは否認する。東京高等裁判所は、特許庁においてした審決に対する不服の訴が提起された場合、その訴状の受送達者を特許庁長官の命によりこの種訴訟事件をも所管する特許庁審判部宛としていたことは永年にわたる慣行であつて、旧訴訟の訴状においても例外ではない。再審原告の訴状は特許庁秘書課の係員が確実に送達を受けており、そのことは送達報告書の記載に徴して明らかであるから、特許庁長官が適法に送達を受けたものといわねばならない。そして、審判部に回付された訴状は特許庁長官に伝達報告され、特許庁長官が自己の代理人として審判官を指定し、その衝に当らしめるために作成されたものが旧訴訟において特許庁長官名義で作成された代理人指定書である。

以上述べた経緯によつて明らかなとおり、再審原告主張にかかる代理人指定書は、真正な文書であり、旧訴訟の再審被告指定代理人の代理権に欠缺があるものではない。

第四  証拠〈略〉

理由

一再審原告の主張事実のうち旧訴訟の経過が再審原告主張のとおりであり、原判決がその主張の日時に確定した事実は、当事者間に争いがない。

二再審原告主張の再審事由は、要するに、旧訴訟の訴状が再審被告に適法に送達されていないから、昭和三五年二月一七日付で再審被告名義で作成されたとする代理人指定書が虚偽公文書であるとし、これを前提に、確定した原判決の再審被告指定代理人の代理権に欠缺があることを主張するものである。

しかしながら、再審被告は、本訴において旧訴訟についてその代理人の代理権を肯認しているのであるから、このような場合においては、旧訴訟の原告は、相手方代理人の代理権の欠缺を理由として原判決の取消を求める利益はないものと解するのが相当である。したがつて、再審原告が民事訴訟法第四二〇条一項三号を根拠として提起した本件再審の訴は、訴の利益を欠くものである。

のみならず、再審原告が提出した全証拠をもつてしても、旧訴訟に関し、再審被告指定代理人の代理権に欠缺があつた事実を認めることはできない。すなわち、〈書証〉によれば、旧訴訟において、特許庁審判部あてに訴状の送達のあつたことを知つた再審被告は、昭和三五年二月一七日被告指定代理人として、通商産業事務官長谷川穆、通商産業技官山田正元両名を指定し、両名は代理権を取得した事実を認めることができる。再審原告は、〈書証〉などを根拠に旧訴訟の訴状は再審被告に送達されておらず、前記代理人指定書は真正な文書ではない旨主張する。しかしながら、仮に訴状の送達についてその名宛人に誤りがあつたとしても、正当な名宛人がその受領を追認すればその者に対する送達として有効となるものと解すべきである。再審被告が前記のとおり代理人を指定したことは、まさに訴状の受領を追認したものということができ、旧訴訟の訴状送達について欠けるところはないものといわなければならない。

したがつて、いずれにしても、再審原告の本件再審の訴は理由がない。

三なお、再審原告は、旧訴訟が当初当庁第一三民事部に係属したが、その後再審原告の知らぬ間に当庁第六民事部において審理され、判決言渡がなされたとして、このようなことは憲法三二条、七六条、八二条に違反する旨主張する。このような主張は、適法な再審事由には当らないが、念のため判断を加える。

旧訴訟事件が当初当庁第一三民事部に分配されたが、後に当庁第六民事部において審理判決をした事実は、旧訴訟の記録により明らかである。下級裁判所事務処理規則第六条に基づいて定められた当庁における当時の事務分配の定めによれば当庁に受理した事件は、受理の順点により民事各部に分配されるが、このようにして一の部に分配された事件でも、その事件が他の部の取扱事件と関連しあわせて審理裁判をするのを便宜とするとき、または、分配をうける部に回避を要する裁判官がある場合、その他特別の事由があるときなどは、その事件を他の部に分配することができるとされている。この場合、当事者の意見をききまたは当事者にその旨を通知することは必要ではない。旧訴訟は上記いずれかの理由によつて第一三民事部から第六民事部に分配がえされたものと推認することができ、したがつて第六民事部は適法に裁判をする権限を有するものであり、原判決が権限に基づかない裁判所によつて審理判決されたということはできない。

四以上のとおり、再審原告の本件再審の訴は理由がないから、失当であつて却下を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(古関敏正 杉本良吉 宇野栄一郎)

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